キングダム6巻 あらすじ

2021-02-13

キングダム6巻のあらすじ。
ネタバレ注意。

第53話 軍編成

千人将 縛虎申

「第4軍整列‼ 俺は千人将、縛虎申(ばくこしん)‼ これより軍編成が始まる‼ 伍は一列に整列せよ‼ 何をぼけっとしている‼ さっさと並ばぬかグズ共‼ 戦は始まっているのだぞ‼」
凄まじい乱戦に目を奪われている第4軍の歩兵達を縛虎申千人将が怒鳴り散らしている。

そこに歩兵の1人が口を挟む。
「お待ちください千人将っ。我らは合流地が亜水からここ蛇甘平原に変わったことしか聞かされておりません‼秦軍は滎陽城を攻める予定だったはず‼なぜ今このような状況にあるのでしょうか‼」

縛虎申はこの歩兵を斬りつけて吐き捨てる。
「歩兵如きが戦の全容をしる必要はない‼ 貴様らは上官の命令通りに戦えばそれでいいのだ‼」

千人将 壁

そこに壁が登場。
「むやみに兵を傷つけるな。これから最前線で命を張ってもらう大事な兵だぞ。今の目まぐるしく変わっている戦況はたとえ歩兵でも説明してやるべきだ」
と縛虎申を制し歩兵に戦況を説明しだす。
・魏軍が滎陽より討って出たため、秦軍も亜水からこの平原に本軍を進め昨日開戦したこと。
・第3・5・6軍は未だ平原に至っておらず秦軍は数的不利な状況にあるうえ、先に到着した魏軍に丘のことごとくを布陣され、地理的にも不利なこと。
・現在、第2軍が丘を目指して闘っているが苦戦中。わずか1日の間に兵力は半分まで失われ援軍を待っていること。
・第4軍は軍編成の後、第2軍を援け魏軍を押し返し、何としてもあの丘を奪取しなければいけないこと。

戦況を丁寧に説明した壁は、続けて歩兵に檄をとばす。
「つまり、ここはすでに戦場だ‼ 理解したならそのばで荷を降ろせィ‼ 荷を降ろすと同時に心を入れかえよ‼ 」
「大秦国の歩兵は六国が恐れる勇猛な戦士である‼ 血を流すことをおしむな‼ 死ぬことをおしむな‼ 栄えある大秦国の歩兵たちよ! 力続く限り斬って斬って斬りまくれ!! 魏兵の血で平原を朱く染めよ!! 諸君らの武運を祈る!! 」

先程までとは打って変わり戦う男の顔つきに変わった歩兵たち。
士気が爆発した歩兵たちを目にし、縛虎申も壁を認めたようだ。
そして軍編成が始まる。

縛虎申隊

信たちの伍は縛虎申の部隊に編成された。
縛虎申は特攻好きで、その部隊は毎回大勢死ぬらしい。
信たちはその縛虎申隊の最前列に編成されることになった。

第54話 五身一体

目の前では壮絶な殺し合いが繰り広げられている。
尾平は気分が悪くなり嘔吐している。

弱者の戦い方

「最前列の多くは最初の衝突で命を落とします。何とか頑張ってそこを乗りきりましょう、皆さん」
澤圭が尾平たちに話す。

「無理だよ伍長。最初を乗りきったとしてもあの混戦で弱い俺らは死んでしまう」
「大丈夫です。混戦になればわずかですが私の経験が活きます。私の伍はいつも最弱と言われていますが、私の伍は今まで一人も死んでいません」

「⁉」
「一人も⁉」
尾兄弟が驚く。

「弱者には弱者の戦い方があります。5人は10歩と離れず常に背を向け合い死角を互いに埋め合います。守が5人なら攻も5人。手負いの敵一人に対してでも5人で攻撃する。これは卑怯ではなく戦法です。” 五身一体 ”、私たちは” 伍の結束 ” で生き残りましょう」

「五身一体」
「伍の結束」
尾兄弟が自分に言い聞かせるように繰り返す。

岩陣

「全軍構えェい‼」
「全軍突撃‼」
縛虎申の号令とともに一気に走り出す歩兵たち。

「ワハハハハ 来たな西端(さいはて)の田舎者共。50の防塵を操る魏歩兵軍に正面から突撃とは愚の骨頂‼ 岩陣(がんじん)だ‼ 奴らの骨まで粉々にしてやれィ‼」
と余裕の表情で、盾を折り重ね壁のような陣形を作りあげる魏兵。盾の隙間からは槍まで突き出ている。

「うげっ、何だあれはっ」
「チッ、やっぱりそうきたか。てめぇら前の奴らの屍駆け上がってあの壁乗り越えろっ。さもなきゃ前後からはさまれて圧死するぞっ」
歩兵たちが歩兵たちが走りながら叫ぶ。
だが、それでも最前列は突き出た槍で串刺しになってしまうだろう。

しかし、信は更にスピードを上げ1人突っ込んでいく。
「ホオォ、勇敢なガキが1人来るのォ。ワハハハハ。あのバカを最初の串ものにしてやれィ‼ 死ねェ‼」
魏兵が叫んだその時、信は空高く飛び上がり壁を飛び越える。

1人壁の中に入ることに成功した信。
魏兵に囲まれるが瞬く間に周囲のこれを斬り倒し、壁の内側から他の歩兵たちの突入口を作るだった。

第55話 伍の戦い

他の歩兵たちが信のつくった突入口から壁の中になだれ込み一気に乱戦になる。

その頃、咸陽の政にも魏が滎陽を討って出たことが伝わる。
魏が不落の滎陽を討って出たことはただ事ではないと、昌文君。
「よほど自信があるのだろうな……、あれに…」
と政は魏の戦い方について何か知っているようであった。

迷子の尾平

「やべえっ、はぐれちまった、ちきしょうっ。到っ、信、伍長、どこだっ」
伍の仲間とはぐれてしまった尾平が1人戦場を彷徨っている。
辺りでは壮絶な殺し合い。いたるところで首が飛び、内臓が飛び散る。

”なんでお前らそんなことが出来るんだよ。イカレてやがる、みんなイカレてやがる。
息が苦しい。血の霧のせいか? ひでェ臭い。クソと小便と臓物の臭い
人を殺す音が腹の底に響く。
やべェ、こんな中にいたら俺もイカレちまう。ちきしょう、ちきしょう‼
こんなとこに来るんじゃなかった”

伍(おれたち)の戦い方

眼前で繰り広げられる殺し合いに呆然としている尾平。
「兄キっ、兄キっ」
と、どこからか聞こえる自分を呼ぶ声で我に返る。

「到っ⁉ どこだ到」
辺りを見回すと馬乗りされた到が槍を突き刺さされそうになるのを必死に堪えている姿が目に入る。

「てめェ‼」
尾平は槍を構え突進。そのまま尾到を襲っている魏兵に体ごとぶつかる。

尾平の槍は魏兵の脇腹辺りに刺さるが傷は浅く、標的を尾平に変えた魏兵が襲い掛かる。
「逃げろ兄キ。俺たちがかなう相手じゃねェ」
尾到が叫ぶが尾平は体が硬直して動けない。

バシュッ‼

そこに伍長の澤圭が現れ、魏兵を背後から斬りつける。
「2人とも今ですっ!」
この機に尾到が袈裟懸けに斬りかかるがこれも浅い。

「なんじゃそりゃ、ふざけやがって。1人じゃ何もできねェ雑魚の分際でェっっ…」
「うるせェ‼これが 伍(おれたち)の戦い方だ‼」
魏兵の首を尾平が一突き。
なかなか倒れなかった魏兵を遂に倒すことに成功する。

突撃小僧

その頃、信は魏軍の陣、奥深くまで1人で斬り進んでいた。

「手練れとはいえガキ1人に何をしておる‼ 盾で囲み身動きを封じえ仕留めィ‼ 我が岩陣を崩しおった憎きガキを突き殺せィ‼」
魏国の将校が台車の上から指示を出している。

「………、雑兵ばっかでちょうど退屈してきたとこだ…、魏の隊長の腕前、見せてもらおうか‼」
魏の将校に狙いを定め更に突進していく信。

「チィッ 前方固めよ。台車は後退だっ‼」
魏の将校が信と距離を取ろうと指示を出すが信の勢いが勝る。
「遅ェよ‼ 勝負だ‼」

魏兵の盾、頭を利用し将校が指示を出している台車まで駆け上った信が一刀で将校を斬り伏せるのだった。

前線から少し離れた丘の上。
魏軍の副将、宮元に部下が戦況を報告している。

「宮元(きゅうげん)様。予想外に前線が押されております。第3大隊を投入しますか?」
「……いや、”あれ”を出せ」

不落の滎陽を討って出たのには、”あれ” によほどの自信があるのだろうと政も気にしていた ”あれ” がいよいよ投入させる。

第56話 戦車隊

魏軍将校を倒した信はそのまま台車上で戦っていた。

地鳴り

「何だよっ、何なんだよこの轟音はァ」
突如、戦場にもの凄い地鳴りが響き渡り戸惑う尾平たち。
そして辺りを覆いつくすほどいた魏兵の姿がいなくなっていた。
さらに、砂風までもが吹き荒れ始める。

「な… 何だあれはっ⁉」
地鳴りと砂煙から一早く何か来ることを察知し台車上で目を凝らしていた信が、砂煙の先から迫ってくる何かを目で捉え急いで引き返す。

中華最強

「ひでェなこりゃ、周りが全然見えねェ」

砂煙で最悪の視界の尾平たちの方に信が物凄い形相で何か叫びながら戻ってくる。
何を言っているか聞き取れないが信の無事に安堵する尾平たち。

「逃げろバカヤロォォ」
「え?」

信が何を叫んでいるのか聞き取れた時には遅かった。
爆走してくるもの凄い数の馬がすぐ目の前まで迫っていたのだ。しかも馬には台車が付けられ台車上には薙刀を構えた魏兵の姿も。

「な…何だこりゃ……」
馬に吹き飛ばされる者。馬上の魏兵に両断される者。
目の前で次々にやられていく秦の歩兵たち。
あまりの出来事に呆然と立ち尽くす尾平たち3人。

「ボケっとしてんじゃねェ‼」
信が3人を突き飛ばす。
尾平たちも危うくやられるところであった。

「澤さん、何なんだありゃ一体」
「戦車隊っ。魏が中華最強と自負する装甲戦車隊です。こんなに早く出してくるとはっ……」

魏が誇る戦車隊に、歩兵では手の出しようがなかった。
爆走してくる馬に引き殺される者。台車上からの攻撃で両断される者。刃付きの車輪で真っ二つになる者。
あっという間に半分以上がやられてしまっていた。

「地鳴りが止んだ?」
「へ?…本当だ…。今のが最後の一台だったんだ!」
「やったぞ、何とか生きのびたぞっ‼」
尾兄弟が喜んでいるが、澤圭がこれに水を差す。

「おそらくこれからが本番です。今のは地ならしの第一波にすぎません。魏の戦車隊の本隊は第二波と聞いたことがあります。逃げ場がないほどの大軍で掃討しに来るはずです。」

藨公の命令

秦軍、本陣の大将軍 藨公(ひょうこう)に報告が入る。
「敵の戦車隊が第4軍歩兵を蹂躙しております。第4軍騎馬隊の突撃!加えて本軍の騎馬隊の増援が必要かと!」

「全騎馬隊に伝令!待機じゃあ」
この報告に対し藨公からの指示は騎馬隊は待機というものであった。

この指示に第4軍の千人将 壁は苛立つ。
” 何をしておるのだ本陣は! 早く手をうたねば歩兵は全滅してしまうぞ‼ “

再び信たち歩兵がいる前線に場面が変わる。
先程よりも数倍もある地鳴りとともに地平線を覆いつくするほどの数の戦車隊本隊が姿を現す。

「ちきしょうっ、ちきしょうっ」
「こっちにゃ援軍とかねぇのかよっ。死んじまう、死んじまうぞ くそォ」
絶望する尾兄弟。

「ジタバタすんな‼ みんな俺の後ろに固まってろ。イチかバチか正面から当たってみる」
信は戦車隊を迎え撃とうと身構える。そのとき。

「策がある」
今まで姿の見えなかった羌瘣(きょうかい)が突如現れる。

「? 今、何があるっつったお前⁉ 」
信が問いには答えず迫り来る戦車隊を無言で見つめる羌瘣。

第57話 羌瘣の防壁

 

もの凄い轟音を響かせ戦車隊が迫ってくる。

「羌瘣くん、策とは何ですっ」
澤圭が問いただす。

「防壁を作る」

「⁉」
「防壁⁉」
「ふざけんな。そんなもん一体どうやって作るんだよっ」
尾平が声を荒げる。

「死体を積んで」
羌瘣が辺りに散らばった死体を指さす。

「ってことは死人を拾い集めるってことか…? お前、こんな時に何をふざけたこと」
「待って下さい! 」
尾平の言葉を澤圭が遮る。

「皆さん、前方に死体を積み上げて防壁を作って下さい‼ できる限り大勢で集めて大きな山をっ…。死体の山で戦車の突進を防ぐんです‼」

澤圭の指示で死体を集めだす尾平たち。
「伍長! こんなんで本当に戦車を防げるんスか」
死体を集めながら尾平が伍長に話しかける。

「防げるかどうかわかりません。これは賭け…」
「いや、悪かねェ思いつきだ」
進軍中に信に絡んできた伍長が澤圭の言葉を遮る。

屈強なこの伍の連中も死体に参戦。
その体格を活かし死体を積んでいく。
「何ボケっとしてんだ ガキ。時間がねェんだぞ。盾と槍も拾って来い‼」

戦車 vs 羌瘣の防壁

「この地響きっ、近いぞ」
「もういい、皆集まれっ」

「信! 何やってる。早く来いっ‼」
「信君、走って‼」

戦車隊が信のすぐ後ろまでで待っていた。
砂煙で視界がひどく近づくまで確認ができないのだ。

「フハハハハ。子犬が一匹走っとるぞ‼ ひけェい ひき砕けェい‼」
戦車隊に信が見つかる。

信は死体で作った防壁に隠れる。

「なっ なんの真似だ貴様ら。そんなもので戦車を止められると思ったかアホ共がっ」

死体で作られた防壁に一瞬驚きを見せるが構わず突っ込んでくる。

が、防壁に設置された盾と槍を嫌ってか、直前で進路を変える。

「左っ‼ 車輪がくるぞっ‼」
車輪に付けられた剣が防壁を削り盾とともに首や手足が飛び散る。

「ひえぇっ」
「やられたかっ」
「大丈夫だ! 飛び散ったのは全部死体だっ。無傷だっ、誰もやられちゃいねェ。他のところも大丈夫だ。奴らみんな避けて行きやがる」

「やったぞォォ、この中にいりゃ奴ら手も足も出ねェぞ」

戦車 vs 信

「少々仕留め損ねましたな。しかし敵歩兵はほぼ壊滅! あの程度の残党は構いますまい」
「否! 呉慶将軍の命は秦の犬共の全抹殺‼ 右へ離脱し旋回せよ! 10番隊は我に追従! 死人の影に隠れたウジ虫共を1匹残らず粉砕する‼」

防壁を避けて行った戦車隊が引き返そうと旋回を始める。

「ああっ、旋回してる奴らがいるぞっ。俺達を狙ってるんだ‼」
「壁がない後ろから攻められるぞっ‼」

「まずいっ その辺の死体を集めて後ろにも…」
と、防壁から出た者の首が跳ぶ。

「バカが‼ 旋回してるのは本隊が通過するまで来ねェ‼ 今は前だけに集中してろっ‼」

「投げ槍が着ますっ‼」

尾平をかすめた投げ槍があの五人組の1人に突き刺さる。
次々に襲ってくる戦車からの攻撃に耐えるしかないことに苛立つ信。

信の苛立ちを感じてか羌瘣が信に言うように呟く。
「戦車の速度が落ちている。障害物のせいだ」

「あ⁉」
信には羌瘣の言葉の意味がわからない。

「今なら狙える」

「………………」
羌瘣が言わんとすることを理解した信。
何も出来ずに苛立っていた表情が一変する。

「投げ槍だっ また投げ槍がくるぞっ‼」
また次の戦車が迫って来る。

「なめてんじゃねぇぞ、てめェら‼」
信は先程の攻撃でやられた男の首から投げ槍を引き抜き、槍を片手に戦車に突っ込み槍を放つ。

信の放った投げ槍が戦車を操縦していた兵に突き刺ささる。
操縦者を失った戦車はバランスを崩し横転。

戦車を撃破することに成功するのだった。

第58話 一騎打ち

信たちの前には横転した戦車。
戦車を引いていた馬が起き上がる姿を見て何かを思いつく信。

もがく時

「やったぞ‼ 魏の装甲戦車を倒したぞ‼」
戦車を倒し興奮する雑魚キャラたち。

しかし、そこに旋回していたもの凄い数の別隊が姿を現す。

「わざわざ俺たちを殺るために旋回した奴らだ」
「あいつら一人も逃がさない気か…」
「チキショウ 防壁は前しかねェぞ。今から作ろうにも間に合わねェ」
「大体、何でこんなにやられてんのに騎馬隊は援軍に来ねェんだよ。あいつら俺たちを見捨てやがったのか」

歓喜も束の間、絶望する秦の歩兵たち。

「そんなもん最初から期待してんじゃねェよ。自分の生きる道は自分で切り開く。それだけだろ」
そこに騎馬した信が現れる。

「⁉」

「信っ⁉ お前一体何やって…」
「馬に乗れるのか 小僧⁉ 」
驚く尾平たち。

「いいか みんな。今さらグダグダ言っても仕方ねェ。生き残るためにはあの戦車隊と戦うしかねェんだ」
「だけど、どうやってあんなのと…」
「知るか! そんなもんわかんねェけど今は固まってねェでもがく時だ‼ とにかく俺が時間をかせぐ!みんなはできるだけ防壁を広げて逃げ場を作れ!まずはそっからだ‼」

「ちょっとまてよお前… まさか一人で戦車隊につっこんで行く気じゃ…」
「心配するな玉砕しに行くわけじゃねェ。時間をかせいでくる。この戦いっ 絶対勝つぞっ」
信は心配する尾平をよそに1人で戦車隊に迎っていく。

縛虎申と壁

その頃、第4軍の騎馬隊は砂煙のせいで前線の戦況を把握できていなかった。

「突撃の命令はまだか!」
戦況が確認できないうえ、いまだ待機という藨公の命令に苛立つ壁。

「前線の戦況を確認にゆく! 壁隊続け‼」
業を煮やした壁が独断で動く。

しかし、一人の男が壁の前を遮る。

「待て。そんなことは貴様のやる事ではない。勝手に持ち場を離れるな」
壁の行く手を阻んだのは縛虎申だった。

「不可解な命令だ。伝令系統に問題があったのかも知れぬ」
「勝手に決めるな。全て将軍の策のうちだ」
「どんな策だというのだ! 歩兵が全滅しようとしているのだぞ! このまま見殺しにするのか!」
「オイ貴様。貴様は歩兵を助けるためにわざわざ戦場に来たのか。それとも魏軍に勝利するために来たのか。どっちだ‼」
「‥‥‥‥‥‥‥‥」
歩兵を助けようと息巻いていた壁だが、縛虎申の言葉に返すこと言葉が見つからない。

信 vs 戦車

場面戻り、信サイド。

「逃げろ 逃げろ 子うさぎが。左だ、左からよせろっ」
信が戦車隊に追い回されている。

「図に乗るなよ馬車野郎ども。騎馬の動きについて来てみろっつんだっ」

後方から追いかけてくる戦車を引き離す信だが前方からも戦車。
かろうじて戦車からの攻撃をかわす。

他の歩兵たちは防壁を広げ身を隠してはいるが、戦車からの攻撃を完全には防げず徐々にやられだす。

信は戦車への攻撃を試みるがなかなか戦車に近づくことができない。

「いろいろ気を散らしすぎだ。さっき倒した一台を思い出せ。お前の相手は戦車そのものだ」
戦車を前に攻め切れない信に羌瘣が助言する。

” どういうことだ⁉ さっきの戦車は偶然横転しただけだ…。横転⁉ そうか‼ 闘う相手を間違ってた ”
羌瘣の助言で何かに気付いた信が戦車隊の隊長車に向け馬を向ける。

「こうるさいハエが‼ ワシ自ら葬ってくれるわ‼ 」
信に気付いた戦車長が信を薙ぎ払らおうと薙刀を振り上げる。

「るせェ‼ お前らにゃ用はねェ」
戦車長からの攻撃には目もくれず信が投げ槍を放つ。

放たれた先にあったのは戦車の車輪だった。

投げ槍が車輪に引っ掛かった戦車が宙を舞う。

信はこの機を見逃さない。
空高く投げ出された戦車長の首を切り落とすことに成功するだ。

第59話 嗅覚


「魏軍を討つために来たことは言うまでもない!だが、こんなことで魏を討てると言うのか⁉ 歩兵のことごとくを無駄死にさせているこの戦い方で…」

壁と縛虎申に詰め寄る。

「無駄死にではない‼ 勝利のための栄誉ある戦死だ‼」

「……縛虎申、お前はなぜこの戦況で勝利を疑わない…。藨公とはそれほど信に足る将か」

「フッ あの方ほど戦に強い将を他に知らぬ」

ボロ服の騎兵

信たちは戦車相手に善戦していた。

信は戦車長の戦車を倒した方法で別の戦車も倒していく。

他の歩兵たちも隠れているだけでなく、走る戦車に盾を投げ込み戦車を横転させていた。


逃げる戦車を追うなかで、他の地にはまだ生き残っている歩兵たちがいることに気付く信。

” まだいける ”

そう思った信が馬を止め、壁風に檄をとばす。

「それでこそ大秦国の勇猛な戦士達‼ 右方に活きのいい奴らが固まって奮闘している‼ 皆、急いで合流して一緒に戦えっ。俺も逃げた一台を討って合流する! いいか俺たちはまだ負けちゃいねェ! 勝負はこれからだ‼」

戦況

信の活躍で息を吹き返す歩兵たち。

しかし、信たち第4歩兵を襲った魏の戦車隊本軍はそのまま第2軍、第1軍歩兵を襲い、戦局を決定付けたと言っても過言ではない一方的な攻勢を奮っていた。

信たちの活躍も所詮戦車大隊の一小隊を討ったにすぎず、極めて局所的なもので大局に何ら影響を与えていないのだ。

大流の中でもがく小石の如き信たちの抵抗を魏軍副将の宮元(きゅうげん)は認識すらしていなかった。

「もはや秦軍に我らに抗う力は残っておらぬ‼ 本軍守備を残し全軍で丘を下り敵愚将、藨公の首をとるべし‼」

宮元の号令で動き出す大軍。
その足音で信たちの勝利の歓声は虚しくかき消されてしまう。


しかし、秦軍総大将 藨公は大流の轟音にかき消された信たちの活躍を見逃さなかった。

「宮元の主軍が来ます。ひとまず退却を」

「第1軍苦戦中っ、第2軍はほぼ壊滅です!」

「第4軍が戦車隊を退けたとの報告が。しかしもう時間の問題かと…」

次々に報告される各地の戦況報告のなかから第4軍の活躍を聞き拾ったのである。

「ほォォォ。各地で同じように戦っておるように見えるが、それぞれは実に多様に盤上を揺り動かす。一の働きが十を動かし千につながり万を崩す。小から始まる連鎖が大火を呼び込み戦局は一気に終局に向かう。そして今、異彩を放つ場所があった。そういうところには ”何か” ある。戦とはそういうものじゃのォ 皆の者。第4軍全騎馬隊に号令じゃァ‼」

騎馬隊

「やべェ… やべェぞこりゃああっ」

「すげェ数っなんてもんじゃねェェェ‼」

信たちの前に地面を覆う程の魏兵が現れる。

「羌瘣っ 何か策はねぇのかっ」

「策でどうこうできる数じゃない」

死体の防壁という策で戦車隊を退けた羌瘣もこの数に対抗できる策は思いつかない。

「くそォォ何なんだよ。次から次によォォ」

もはやここまでかと皆が思ったその時、辺りにもの凄い地鳴りが響き渡る。

魏の戦車隊が戻ってきたかと狼狽える尾平たちだが、その正体は秦軍の騎馬隊だった。

信たちの後ろから現れた騎馬隊が魏歩兵たちを蹴散らしていく。

「すげェ すげェぞ騎馬隊っっ」

「オレたちの仇をとってくれェェェ‼」

藨公の本意

「壁っ」

「信っ 信かっ よくぞ無事だった」

信が壁を見つけ束の間の談笑。

「なるほど… 藨公将軍を動かしたのはこいつらか…」

縛虎申は羌瘣の防壁、横転した戦車、歩兵たちの中心となっている信の姿を遠目にしながら戦況を分析している。


「円陣を旋回して蹂躙しろ。歩兵はその防壁を右に広げて備えよ。そのうち戦車隊本軍が引き返して来るぞっ」

壁が戦局を変えようと指示を出す。

” フン 生真面目な中央の千人将め。頭の回転は早いようだな。だが貴様は騎馬隊突撃の意味をくみっとっていない。将軍の本意はここから大局を覆すことだ‼ ”

壁の的確な指示を認めながらも、それは藨公の本意ではないと考える縛虎申が歩兵を集める。

「縛虎申隊歩兵整列‼」

1000人いた歩兵が集まったのは100人程度。多くの歩兵が魏の戦車隊にやられてしまった。

「よくぞ魏戦車の攻撃から生きのびた‼ その上で反撃にまで出たことは縛虎申隊の誇りであり、秦国の誇りである‼」

軍編成のときから恐れていた縛虎申から労いの言葉を受け誇らしげな笑みを浮かべる歩兵たち。

が、縛虎申の次の言葉で再び地獄へ突き落される。

「絶対絶命なる死地を乗り越えた貴様らならば、更なる死地をも乗り越えられる‼ これより我が隊は敵大歩兵中央を強行突破し丘頂上の魏副将宮元の首をとる‼ 突撃体制ェェ‼」

縛虎申は生き残った100人程度で地を覆いつくす程の魏軍中央を突破し丘を登るつもりのようだ。

第60話 騎馬隊怒濤