キングダム4巻 あらすじ

キングダム4巻のあらすじ。
ネタバレ注意。

第31話 魏興の弩行隊

別動隊

河了貂を含めても10人程の別働隊が本隊を離れていく。
別働隊は複雑な迷路になっているという、”右龍の回廊” を使い政蟜のいる本殿に向かうようだ。

「少数とはいえ建物の中に見失うのは厄介だぞ!」
と竭氏は別動隊の動きを警戒するが、肆氏は右龍の回廊には側近の左慈(さじ)を配しているいるから心配はいらないと別動隊の動きに注意を払わない。

回廊への入り口の扉はタジフがあっさり破壊。複雑な迷路になっている本殿への道を把握している壁の案内で先を急ぐ。

魏興の弩行隊

もう一人の肆氏の側近、魏興(ぎこう)の隊が弩を構え一斉射撃の態勢をとる。
竭氏をもう一歩のところまで追い詰めた山の民を撃った隊だ。

昌文君は他国も恐れるという魏興の弩行隊の射程に入る前に距離をとって態勢を立て直すことを政に進言するが、
「その必要はない!」
と楊端和が前に出る。
楊端和には何か考えがあるようだ。

楊端和の狙いと山の民の力

「どうした楊端和殿。退がられよ。あの数の矢はいかに山の民とて防ぎようがないっ。退がるのだ!」
昌文君が楊端和に進言するが楊端和は黙っている。

腕組みをし戦況を見つめるその鋭い目には、先程矢で撃たれた3人の山の民を捉えていた。
「矢ごときに屈する山の民ではない! 突撃態勢‼」
楊端和の号令とともに突撃の態勢をとる山の民。
魏興の隊との距離をつめていく。

「ギリギリまで引きつけよ。一矢外さず喰らわしてやれィ‼」
魏興の隊も前進してくる。

「全弩一斉射撃‼ 射…」
と魏興が叫ぶか叫ばないタイミングで楊端和が何やら叫ぶ。
すると、矢で撃たれ倒れていた山の民が突然起き上がり弩行隊に襲い掛かった。
なんと死んだと思われた3人は生きていたのだ。

これにより、一気に乱戦に突入。弩の脅威からは解放される。

左慈の隊に遭遇

外で乱戦に突入したころ、回廊を進む信たちも右龍の回廊を護る左慈の隊に遭遇する。
その数は信たち別動隊の数十倍以上。回廊の先が見えない程の数であった。

第32話 人斬り長

左慈

「チッ、これだけか」
回廊を埋め尽くすほどの兵の後ろで階段に座る男が呟く。
この男が肆氏の片腕にして竭氏の人斬り長、左慈のようだ。

左慈は、呂氏側の有力者の暗殺に多く関わっているため ”人斬り長” と呼ばれるが、暗殺者の顔は左慈の影の一面であって、本性は生え抜きの武人である。
左慈が率いる兵も手強いようだ。

別動隊はこの左慈と左慈の兵を10人程で相手にしなければならない。

正念場

「王宮内には左慈、魏興の他に将たる将はいない! ここを突破すれば本殿までの道のりは近いぞ!ここが正念場だ‼」
壁の檄に呼応し、信、バジオウが抜刀。
「全員殺ス」
バジオウの言葉とともに回路内での戦いが始まる。

信が一振りで大勢の敵兵を斬り飛ばす。
バジオウは物凄い速さで双剣を振り回し次々に敵兵を斬り倒す。
タジフは棒の先端に巨大な石球が付けられているハンマーみたいな武器で殴り潰す。
他の山の民、壁も確実に敵兵を仕留めており、数で劣る別動隊だが圧倒的強さで敵兵を蹴散らしていく。
その強さは応援している河了貂がビビるほどであった。

狙われる政

回廊の外でも激しい乱戦が繰り広げられていた。
そして、こちらでも山の民の力が炸裂。
数で勝る魏興隊だが、肆氏が増兵を指示するほどである。

しかし、政が乱戦に参加していることに気付いた魏興が政の首を獲らんと馬を走らせる。

左慈の一刀

回廊では山の民の一人が大将首・左慈を討とうと乱戦をすり抜けていた。
しかし、先程まで座っていた階段に左慈の姿はない。
そのことに気付いた瞬間、頭から真っ二つに斬られてしまう。

「調子に乗りすぎだよ 貴様ら」
人斬り長の異名を持つ左慈の強烈な一刀であった。

第33話 触発

流れ

左慈に頭から真っ二つに斬られた山の民。
驚きを隠せない信と壁。
バジオウとタジフも左慈を警戒する。

一人の山の民が左慈に襲い掛かる。
が、またもや一刀のうちに斬り伏せられてしまう。

左慈の圧倒的な武の力で優勢だった場の空気が変わってしまう。
河了貂は怯え震えている。
壁も体がこわばり動くことができない。
左慈のたった二振りで完全に流れをもっていかれてしまった。

しかし、この男は違った。
「調子に乗りすぎだよ ハゲ!」
信が左慈の前に立ちはだかる。

本番

「……この気配、バジオウですか?」
「いや……、おそらくあの少年だ。あそこも本番が始まりそうだな」
回廊の外で戦っている楊端和とその側近が回廊から漏れ出るただらなぬ気配に気づく。

回廊内では信と左慈が激しく斬り合いが始まった。
いつも一刀で仕留める左慈と打ち合っている信に驚く左慈の兵。
左慈の武の前にすくみあがってしまった壁は、臆することなく左慈に立ち向かう信に心を震わせる。

壁の決意

「何故だ信。なぜ少年の君が左慈を相手に立ち向かえるんだ。恐ろしくないのか?君達は一体どこにそんな力を秘めている。君達……?」
「漂…! 漂もあの王騎軍を相手にひるむことなく先頭を斬り進んだ。君達は一体…」
「”天下の大将軍” 本当になるというのか信。下僕の身の君が本当に…」
壁は左慈と斬り合う信を見ながら自問自答を繰り返している。

「だとしたら。君が本当に大将軍になるのだとしたら。君は中華統一を目指す大王の片腕となって天下に羽ばたく!」
左慈の一刀が信の頭部をかすめる。
兜のように被っていた仮面が割れ、尻餅をつく信。
左慈がとどめをさそうと振りかぶる

「ならば、ここで死なせるわけにはいかない。私はすでに一人死なせている。この少年は絶対に殺させぬ‼」
すくみあがっていた壁が信を救おうと左慈に斬りかかる。

背を向けている左慈に対し放った二振りは恐れからか浅く致命傷とならない。
深く踏み込み三刀目を放とうとした瞬間、壁は振り向い左慈に斬られてしまう。

第34話 逆上

天下最強

「壁ぃぃいいい」
右肩から腰にかけて斬られた壁が力なく崩れ落ちる。

「続きだ小僧」
左慈が信を睨む。
「てめエ‼ よくも壁を…」
信は左慈に斬りかかるが、あっさりとはじき飛ばされもの凄い速さで何ヵ所も斬られてしまう。

「剣は力。剣は速さ。共に最上を極めるこの俺は天下最強だ。おい、小僧。その左慈様に傷をつけたな。どう、おとしまえつけてくれるんだ? お前? あ?」

信は立ち上がることが出来ない。
仮面を割られた一撃で脳震とうを起こしていたのだ。

戦況

少し離れた場所から戦況を見守っていが河了貂が、わずかに動く壁の指先に気付く。
急いで壁のもとへ駆け寄る河了貂。
「壁っ、しっかりしろっ‼ 壁っ‼」

壁はかろうじて生きていた。
か細い声で戦況を尋ねる壁に河了貂が応える。
「戦況は…すごく不利だよ。すごく……。でも大丈夫だ! だってこっちには信がいる。あいつはどんなにボロボロになっても負けはしない。どんなにボロボロになっても。絶対勝つ‼ そうだろ信っ‼」

河了貂の言う通り左慈が動き出してからは戦況は一変していた。
バジオウ、タジフでさえ敵兵に包囲されている。数にものを言わせて左慈の隊が盛り返してきたのだ。
特に信は左慈の攻撃を一方的に受け続けていた。

もう一回言ってくれ

「まずいな。左慈様、完全にキレてるぞ」
「当たり前だ。服を汚されただけで相手を真っ二つにするお方だ。あのガキ、なぶり殺しにされるな」
信を斬りつけている左慈の姿を遠目に左慈の兵が話している。

まさに ”なぶり殺し” であった。
いつもは一刀で仕留める左慈が、痛めつけるように信を斬りつけていた。

「どうした? 貴様ら別働隊となって本殿を討つ算段だったのだろう?行ってみよ‼ どうした? 小僧どうした? 早く立たんか。あ? 」
脳震とうを起こしている信は立ち上がることができない信。

だが、必死に攻撃に耐えている間に脳震とうも回復してきていた。
そして視界がクリアになると同時に反撃。左慈を吹き飛ばす。
「ケッ。バカが長々としゃべりやがって。全然聞いてなかったからもう一回言ってくれよ。誰が天下最強だって⁉」
床に背を付ける形で倒れこんだ左慈に、本人含め皆が驚きの表情をみせる。

政の危機

一方、回廊の外では政がピンチを迎えていた。
政が乱戦に参加していることに気付いた魏興が政の前まで辿り着いてしまったのだ。

第35話 合力

魏興の剣

「ほう……、その若さで騎馬したこの魏興を前にひるまぬとは王族ながら武心が宿るか! 或いは昭王(しょうおう)の再来か…。だが、生まれ落ちた刻と場所が悪すぎたな、御免‼」
魏興が政に襲い掛かる。
だが、魏興はすぐに自分の異変に気付くことになる。
視界が上下逆さまになっているのだ。

「馬上にふんぞり返っておる割には随分と軽い剣だな」
何が起こったのか理解できていない魏興の前に昌文君が現れる。
政に襲い掛かった魏興は昌文君の反撃に合い態勢を崩されていたのだ。

見物する王騎将軍

「ンフフフフ。相変わらず渋いですねェ昌文君はァ。しかし一か所見物できないことが残念ですねェ…」
政たちが朱亀の門を突破してから、この攻防を見学していた王騎将軍が呟く。
王騎将軍は副官の騰(とう)を呼びつけ、この場から見学できない右龍の回廊へ行って様子を見てくるよう指示を出すが、回廊は左慈が守っているから別動隊は全滅しているのでは?と騰は返答する。

「右龍を抜けたら本殿までは阻むものはりません。肆氏は必勝を期して左慈を配置したのでしょうねェ。しかし、それを承知で王と昌文君は別動隊を送ったのですよ。右龍では二人が最も信頼を寄せている者が戦っていることは間違いありませんねェ」
王騎将軍が騰に返答する。

壁のおとしまえ

「てめえのヨタ話のおかげで脳震とうが治っちまったぜ。さァ立てよ。誰が天下最強か教えてやる‼」
その頃、右龍の回廊では信vs左慈の第2ラウンドが始まろうとしていた。

「そうか。遊んでいるうちに脳震とうが治っちまったか。だからどうした? 結局は最初に戻っただけだ。もう、頭を護る面はないぞ。次の一刀で少ない脳みそをぶちまけてやろう」
頬ににじむ血を拭いながら立ち上がった左慈が上段にかまえる。

信も次の一刀に賭けていた。
脳震とうによる目まいは治ったが、あちこち斬られて血を流しすぎ余力が無かったのだ。

感覚を研ぎ澄ますように目を閉じる信。
そして、激しくぶつかり合う両者。

「速さも力も俺にかなう者なし!」
左慈が呟くと信の肩口から血が噴き出す。

信の負けかと思われたが信は倒れない。
「オッサン。頭に血が上りすぎて気付かなかったみたいだな。あんた、壁にニ撃くらってから速さも力も半減してたって。壁のおとしまえだ。しっかり受け取れ‼」
信の言葉とともに、左慈の肩口から胸にかけて大量の血が噴き出す。

信vs左慈の戦いは信に軍配があがったようだ。

第36話 嘲笑う王弟

「バカな…。このオレこんな…ガキに…」
左慈が力なく前のめりに倒れ絶命する。

場面かわり本殿。竭氏が本殿内に慌てて飛び込んで来る。
「その慌てよう珍しいな。どうした丞相?」
と政蟜。周りの取り巻きたちは皆一様に驚きの表情を浮かべている。

「報告が二つ!」
竭氏は玉座に座る政蟜の前で膝まづき話始める。

「一つ!此度の山の民の下山は盟復活のために非ず! 入城した50人は ”朱亀の門” を武力突破し現在 ”公龍の広間” にて肆氏の兵300と交戦中!」

「二つ! 50人の山の民の中に、大王 嬴政のお姿有り‼」

「やはり生きていたか嬴政…。ククク。孤立した挙句、下等な山猿をお供に王宮奪還だと⁉ いかにも下品な貴様らしいやり方だ! だがそんな脆弱な軍勢で、この俺から王座を取り戻せると思ったのか⁉ バカ‼ 死をもって思い知るがいい。貴様には王たる資格がなかったことを‼ 王は俺だ‼」
竭氏の報告に取り巻きはうろたえるが政蟜は声を上げ嘲笑う。

決着‼ 回廊での戦い

もの凄い早さで敵を斬り裂いていた双剣をバジオウが納める。
別働隊が左慈の隊を一掃し右龍の回廊での戦いが終了したのだ。

「やったぞ壁……」
力なく壁のもとへ歩く信。その目には涙が滲んでいた。

「勝利してなぜ泣くのだ? 誰か親しい人でも死んだのかな?」
「壁‼ 生きてたのかっ‼」
「フフフ。腰が引けていた分、受けた傷も一寸浅かったようだ」
信は壁が生きていたことを知る。

2人の犠牲者は出たが、回廊を覆う程の兵を相手に10人で勝利した別動隊。
皆ボロボロだが、休むことなく政蟜の待つ本殿へ向かう。

第37話 仇

檄(げき)

公龍の広間では激しい乱戦が続いている。
昌文君の配下の一人が殺られそになるが山の民が間一髪で助ける。
「ありがとう、助かった。しかし、君たちは本当に強…」
と言いかけ気付く。
山の民たちも呼吸は荒く立っているのがやっとという状態だ。圧倒的な武を誇る山の達にも限界が近づいていたのだ。
その時である。

「全軍聞けェィ‼ 戦意を断つな‼ 勝利は目の前だぞ‼」
「これは俺と政蟜の戦い‼ そして政蟜の庇護者となり、秦を牛耳ろうと企む竭氏との闘いだ‼ この二人の他にこの腹黒い反乱を牽引する人物はいない‼ 二人を失えば敵は必ず崩壊する。その二人がいる本殿は丸裸であり、今にも別動隊が襲いかかり首領二人を討つであろう‼ 俺たちは、ただ耐えしのげばいい。耐えしのげ‼ 剣が折れても。腕を失くしても。血を流し尽くしても耐えしのげ‼ 耐え凌げば俺達の勝ちだ‼」
政の檄で限界だった兵たちの士気が激しく再燃する。

疲弊しきっていた兵たちを復活させた政を頼もしく思ったのか、笑みを浮かべる昌文君と楊端和。
敵である肆氏ですら ”いい王だ…” と感嘆する。

しかし、出鼻をくじくかのように新手の大軍が到着するのだった。

回廊を進む別動隊1

壁の案内で回廊を進む別働隊。
腕を失う深手を負った山の民が苦しそうに歩いている。
その様子をみた河了貂は休憩を提案するが、
「本人ガ進モウトシテイルノダ。止メルコトハナイ。モシ、ソノセイデ死ンダトシテモ、ソレハソレデイイ」
とバジオウが提案を却下する。

「何いってんだよ隊長っ。何でそんなことを言うんだよっ」
納得できない河了貂だが、壁もバジオウに同調。
「全てがかかっている。広間で戦う大王たちの命も。城外で待つ2千の仲間の命も。この戦の勝利も。全てが我々、別動隊にかかっている。彼もそれが分かっているから進もうとしている。力尽きるその時まで」
苦渋の表情を浮かべバジオウたちに従う河了貂。

回廊を進む別働隊2

深手を負っている山の民も懸命に歩み続けていた。
しかし、遂に限界に達したか、生気が体から抜け出て体が傾き始める。
「もう少しだ。行こうぜ」
こと切れ倒れかけた山の民の腕を信が支える。
こと切れたかに思われた山の民は信の肩を借り再び歩き始める。

回廊を進む別動隊3

信に肩を借り懸命に歩く山の民。
自分の横を苦しそうに歩く山の民を見て、山の民を勇気付けようと思ったのか漂のことを話し出す信。
「あんた兄弟とかいるのか? …つっても言葉通じないんだよな。おっ。見ろよいよいよだぜ。」
本殿が回廊の窓から見え始めたとき、目に涙を浮かべ河了貂が立っていた。
「信。その人もう死んでるよ」

いつからこと切れていたのだろう。
山の民は力なく信にもたれ掛かっていた。

怒りに任せ先を急ぐ信。
本殿はすぐ目の前に迫ていた。

第38話 ランカイ

本殿に突入

「終わりだ悪党共!」
竭氏一派が政を倒した後のことを議論している本殿に、信たち別動隊が突入してくる。

「ひいいいいいっ‼」
目を丸くし腰を抜かす竭氏一派。

「貴様ら一体どうやってここへ‼ 左慈めしくりじおったのか⁉」
竭氏が叫ぶ。

死罪

「…お前が政蟜か。……意外だぜ。泣いて逃げ回ると思ってたんだけどな。余裕あるじゃねェか。覚悟できてんだろうな。てめェ」
玉座で寝そべる政蟜に信が告げる。

「死罪だ」
微動だにせずに政蟜が呟く。

「あ?」
信は政蟜の言葉を消化しきれなかったようだ。

「死罪だ。貴様らのような下等な輩が高貴な王宮に踏み入った罪で死罪。貴様らのような下等な輩が王族に向かって話しかけた罪で死罪。貴様らゴミ虫が俺と同じ場所で息をしている罪で死罪!」
玉座に寝そべりながら冷たい表情で言い放つ政蟜。

「クククククッ。そんなもんだろうな。今のお前の反応が一番王族らしいと思うぜ。…ずっとあいつと一緒だったから忘れてたぜ」
信が笑って返す。

「王に向かって ”お前” とは何事だ。貴様イカレテいてるのか?」

「オイオイお前こそ頭おかしいんじゃねェか? 秦の大王は政だ‼ お前はただの反逆者だ‼」
楊端和を説得したときもそうだったが、信はたまに真っ当なことを言って周囲を驚かせる。

ランカイ登場

「……貴様…。ただで死ねると思うなよ…生きながらに四肢を引き裂いてやる。ランカイ‼」
どこに隠れていたのか政蟜の声とともに現れたランカイが別動隊を頭上から襲い、山の民の一人を瞬殺。山の民は上半身を引きちぎられてしまった。

「何だてめェは‼」
信が斬りかかるが、刃はランカイの固い皮膚を通らず斬ることができない。
逆に引きちぎった山の民の上半身でランカイに殴り飛ばされてしまう。
もの凄い勢いで吹き飛ばされた信は気絶してしまうのであった。

「な…何だ…こいつは…」
ほんの数秒の出来事だったが規格外のランカイの強さを目の当たりにし、壁が声にならない声を発する。

ランカイのただらなぬ気配を感じ取ったのか、広間での戦況を見物していた王騎将軍は、いまだ右龍の回廊に行く気配を見せない騰を呼びつけ今度は本殿に向かわせる。

吹き飛ばされた信の横で河了貂がランカイと山の民たちの戦いを見守っている。
ランカイにはバジオウら山の民が3人がかりで挑んでいるが、バジオウの双刀でもランカイを斬ることが出来ない。
困惑する河了貂だが、そのとき、気絶している信がブツブツ独り言を言っていることに気付く。

第39話 バジオウ

両手を広げて雄叫びをあげるランカイ。
「こんな……、こんな化物と一体どうやって戦えと言うのだ‼」
打つ手なしといった感じの壁。
「タジフ。シュンメン。2人とも退がっていろ。俺がやる。しばし昔に戻るぞ」
無言でランカイを見つめていたバジオウが残り二人となってしまった仲間に告げると、一人ランカイに歩み寄って行く。
今まで見たことがないバジオウの雰囲気に壁は戸惑いをみせる。

死王

「遅いな…。中は一体どうなっているのだ…」
「待機とのことだったが動いた方がいいのではないか?」
「そうだ!8万の軍が来る前に城門を破り閉じればよい!」
王宮への入城が認められずに城門前で待機する昌文君の部下たちが中の様子を心配している。

そこに、山の民の長老二人が現れる。
「勝手な真似はするな!アホが」
「命令が ”待機” ならば待機じゃ!アホが」
相変わらずこの二人は口の悪い。

「しかし、たったの50人で戦っているのだぞ。あんた達は心配ではないのか⁉」
「我らは王を信じておる。それにただの50人ではない。こちらから出した40人は各部族の手練れを選出してある。そしてそれを率いておるのは ”山の王” 楊端和様じゃ」
「そこも気になる。山の王は女ではないか…。女が兵を率いるなど…」
「何も解っておらんな秦のアホは!」
「バァ~カ」
「平地と同様に山界も数百年来多くの国々に別れ衝突を繰り返していた。しかし、端和様はわずか数年でそれを束ねられた!自ら先陣に立ち武力でな‼ヒヒヒヒ。おかけで当時、端和様は ”血に飢えた死王” と山界中から恐れられた。女がどうした⁉ 強いものは強い! 山界広しと言えど結局、端和様の剣にかなう者はいなかったのだぞ」
「バァカ」
もはや一方の長老は ”バカ” しか言っていない。

バジオウの過去

「む……、そう言えば一人だけおったな。端和様の面を割った邪鬼が」
「うむ。そうじゃな」
「現在は端和様の ”剣” となっておるバジオウじゃ」
長老たちの話がランカイと一人戦うバジオウに向かう。

「………バジオウは憐れな餓鬼じゃった。あれはまだ遠征を始めて間もないころ、北の深山に入ったとき。野営の見張りの三人が姿を消した。近くを探すと内臓を喰われた三人の死体があった。初めて踏み入れた深山。まだ見ぬ凶暴な獣がいる。20人が隊となり周りを探りに行った。が、しかし一向に戻って来ぬ。嫌な予感と共に本隊を動かしてその20人を探した。すると20人の屍の内臓をむさぼる獣がいた。バジオウじゃった」
ぞっとする昌文君の部下たち。

「後で聞いた話では奴の一族は数年前、戦に巻き込まれて滅したそうじゃ。それは、もう言語ではなかった。何年も一人で生きてきたあ奴は人ではなくなっていたのじゃ。奴をとり押さえるのは大変じゃったぞ。端和様はバジオウを一族に迎え入れた。バジオウはしだいに人間性を取り戻し今では秦の言葉を話す有能な戦士じゃ。じゃがな。あ奴の中には今でも潜んでおる。あの頃の獣がな。もしその獣が解放された時は、手におえぬぞ!」

端和の剣

端和の剣ことバジオウがランカイを翻弄している。
刃の通らないランカイの固い皮膚に対し、全ての攻撃を同じ傷口に集中するバジオウ。
バジオウのあまりの強さに驚きを隠せない壁と河了貂。

執拗に同じ傷口を狙うバジオウを嫌がるランカイだがバジオウの双刀が一本折れてしまう。
しかし、そのあとのバジオウの攻撃がえぐかった。
なんと、傷口を手で引き裂いたのだ。

「一人でハリキリすぎだ。そろそろ参加するぞ。こっちだって鳥牙族(ちょうがぞく)の代表だ。バジ族にだけ格好つけさすわけにはいかねェんだよ。なぁ、タジフ」
「そうだった。猿とたわむれているヒマはない。我らの王が待っている」
シュンメンとタジフが参戦し3人がかりでランカイを倒しにいく山の民。

バジオウ一人に翻弄されていたランカイ。新たに二人の山の民が加わり恐怖したのか、ランカイは後ずさりするのであった。

第40話 悪

夢の中の出来事

気絶している信の夢の中から40話は始まる。

信は夢の中で漂におんぶされている。
動けない信を漂が運んでくれている設定らしい。

「死体だ」
しばらく進むと朱凶の死体を見つける。

「お前の仇をとったんだ‼ でも、まだだぜ。これから本当の仇を…」
「仇は朱凶で十分だよ。ここから先はそうじゃないはずだ!」
信の言葉を遮るように漂が言うと、漂の姿は霧のように霧散してしまった。

今度は真っ暗な部屋で一人、信がうつ伏せで倒れている。

「何をしている。いつまで寝てる気だ」
ボロボロで動けない信には声の主がわからないが、漂でないことはわかった。

「天下の大将軍が聞いて呆れる。くやしかったらさっさと起きろ。信。今はお前に懸かっているんだぞ!」
そう告げ信の頭を軽くたたくと、声の主はまた霧散してしまう。
「政…」
信が目を覚ます。

ランカイ vs 山の民

「ランカイが…押されておるぞ…。……まさか…、あの怪物が負ける⁉」
信が目覚めると、バジオウ、タジフ、シュンメンの3人がランカイを圧倒していた。

絶えず続く3人の攻撃を前に、さすがのランカイも戦意喪失。
膝をつき座り込んでしまったその時、

「誰が休めと言ったランカイ‼」
政蟜の怒号が響き渡る。

声に反応し怯えるランカイ。

「何のために貴様のような化物を飼ってきたと思っている‼ 教えたはずだ‼ 貴様の存在価値は人を殺すことだけだと‼ さっさとたたきつぶせ。さもなくば…… ”お仕置き” だぞ」
政蟜の”お仕置き” という言葉に反応し立ち上がり腕を振り回すランカイ。
タジフが被弾してしまい、タジフの胸からはろっ骨が折れるような音が響く。

ランカイの生い立ち

「見たこともない珍種の猿の赤子。そう言って闇商人はランカイを売って行った」
政蟜がランカイの過去について語り始める。

「興味本位で飼ってみたランカイはわずか数年でこんな化物に成長しおった‼ 赤子のときから念入りに調教したおかげで、自分の言うことは 何でも 聞く。何でもだ‼」
そう言い放ち高笑いする政蟜。

王族

「……何なんだ…。何なんだ、さっきからお前はっ…‼ 黒卑村でいろんな奴を見てきたけど、お前ほどの下衆野郎はいなかった」
河了貂が怒りをあらわにする。

「ククク。ゴミ虫が鳴いておるわ。オイ、虫けら。それ以上、臭い息を吐くな。王宮が汚れる」

「ふざけるな…。そっちこそ早くそこをどけ。玉座が汚れる。そこは政が座る場所だ」

「逆だ。より純血な王族である俺をさしおいて王位についた嬴政。奴こそが玉座を汚した張本人だ」
玉座を汚したのは王である政だと言う政蟜。
政蟜が自分の王族論について語り始める。

「貴様ら民衆は愚かで利己的で欺き、殺し、奪う。他人を出し抜くことに没頭する卑しい生き物だ。だが、それは許す! 人の性は生来 ”悪”‼ 貴様らの愚かさは生まれ持ったものだからだ。しかし王族は違う。生まれながらの至高の存在…。他をうらやまぬ、他を畏れぬ。王族は貴様らの上に立つ支配種だ!
”王国” とは支配する側と支配される側とで成り立っている。貴様らがより低く我らがより高く在るときこそ国は富み安定を得る。貴様らはただ我らに平伏せばよい! それが支配される側の在るべき姿!
我らの務めは王家の血を盤石にし、さらなる高みに上り強固な国を築くこと!だから政は排除された‼ 王族は王族にふさわしき者によって継承されねばならぬ。これはっ、”国家の問題”だ‼
その点を踏まえた上で反論があるというのか?愚民のガキ」

「あるに決まってんじゃねぇか!」
言い返すことが出来なかった河了貂に変わり、意識を取り戻した信が返す。

「政蟜。お前は呂氏の留守をつき、政を急襲え玉座を奪った。欺き、殺し、奪う。お前がさっき言った愚民そのものじゃねェか。至高な存在が聞いてあきれるぜ。血がどうのくの言っても本当のところは政に王位をもってかれて逆恨みしただけだろ。…………。はっきり分かってることはよォ、どんなにお前が偉ぶってても、結局身を呈してお前を護ろうとする人間は一人もいねェってことだ! そして戦っているのは虐待におびえた猿一匹。それが生の現実だ…。気色悪ィんだよ、てめェら。
さァ、そろそろ、そこどけよ政蟜。政が外で怒ってっぞ!」

第41話 決定打

公龍の広間では依然として激しい乱戦が続いていた。

「トッヂ、フゥヂ、秦王を護れ。万が一があってはならん。ラマウジ後ろを任す」
楊端和が自分を護衛している側近に指示を出す。
昌文君は魏興との一騎打ち中。馬上の魏興を政に近づけないようにするのに精一杯のようだ。

政の檄で士気が再燃し皆奮闘してはいるが、魏興軍との人数差の前に限界が近づいていた。

剣で倒せぬ相手無し!

半狂乱で走り回るランカイを攻撃し続けるバジオウ、シュンメン。
そこに復活した信が参戦。斬りかかる。
しかし、やはりランカイの皮膚に刃は通らず、逆に蹴り飛ばされてしまう。

「クソォ出ね…。あの猿はもう一息なのに剣じゃ決定打が出ねェんだよ‼ なんとか転ばしてタジフの石球で頭カチ割るしかもう手はねェ‼」
苛立ちをみせる信に壁が語りかける。

「そんなことはない。もっと ”剣” を信じろ。信。剣が効かないのはお前の腕が未熟なだけだ!剣の政ではない!剣とは500年の争乱が育んだ最強の武器だ!中華争乱500年、数ある武器の中で剣はただひたすら敵を倒すことだけを追求して進化してきた。剣で倒せぬ相手なし! 全ては使い手しだい‼ それが剣という武器の本質だ」

そう言われ剣を見つめる信。
”剣で倒せぬ相手なし。全ては使い手しだい‼”
”ただひたすら敵を倒すために進化した姿……”

何かに気付きいた信は右手に剣を縛り付ける。

ランカイ撃破⁉

「隊長!何とかその大猿の動きを止めてくれ!10秒、いや5秒でいい!そうすりゃ俺が仕留める‼」
信がバジオウに告げる。

「バカな。俺達が苦戦しているのにガキがどうやって倒すというのだ!それに…あれだけ半狂乱で走りまわられちゃ止めようが…」
シュンメンが呟くが、タジフはランカイの足にしがみつき走り回るランカイを止めようとする。
「かけるぞ。おれは少年に」

傷つき吐血しながらもランカイの足にしがみつくタジフは、その怪力で走り回るランカイの足を止めることに成功。すかさず、バジオウ、シュンメンがランカイに襲いかかりランカイをかく乱しランカイの動きを止める。

「コレデドウダ少年‼」
バジオウが叫ぶ。

ランカイの背後に飛び上がっていた信。
落下する力を利用しランカイを突き刺すことに成功するのだった。